GIFT BOOKLET No.03 / FOR YOUR TEAM

診断のあとの、実践の本3

対話がはじまる、
5分の習慣

会議の最後の5分を変えるだけで、
チームに助け合いの空気が育つ。
アスク&オファーという、いちばん小さな実践。

全2章 + はじめに・脚注 / 読了 約8分 /
CONTENTS

この本で、起こること。

  1. この小冊子について
  2. チームワークを生み出す「アスク&オファー」
  3. 会議の最後の5分を変える
  4. 脚注・参考文献
INTRO

はじめに

これまで多くの現場に関わってきて、領域も規模もまったく違うのに、ほとんどの現場で同じ「行き詰まりのかたち」を見てきました。

頑張っているのに、誰も助けてくれない。
引っ張っているはずなのに、いつのまにか一人になっている。

この本は、そこから「降りる」ための、いちばん小さな実践についてまとめたものです。

これは何の本ですか? 3つのメリット

本書は、「会議の最後の5分」だけ から始められる、チームに助け合いの空気を育てる小さな習慣をまとめた小冊子です。これを身につけると、こんなことが起こります。

MERIT 01 チームの「だんまり」が、相談に変わる

会議のあとに溜まりがちな「言えなかったこと」が、その場で言葉になり始めます。

MERIT 02 「抱え込み」をやめて、みんなでやる

一人で背負ってきたものが、自然と誰かの手に渡っていきます。

MERIT 03 「引っ張るリーダー」から「ささえるリーダー」へ

全部を一身に担わなくても、チームが内側から動き出すことを体感できます。

やり方を変えたわけではないのに、なぜか最近うまく回らない。そんな噛み合わなさを感じている方に、まずひとつだけ 持ち帰っていただきたい習慣について書いています。

この本を、特に読んでほしい方

これまでみんなを引っ張ってきた方。プロジェクトの立ち上げから走らせる役を担ってきた方。組織の規模が大きくなる中で、いつのまにか「抱え込み」や「孤立感」を感じるようになってきたリーダー、マネージャーの方々。

肩書きは関係ありません。経営者の方でも、現場のスタッフでも、フリーランスでも、家庭や友人との関係に悩む方でも。

もしひとつでも、次のような景色に「あ」と思ったなら、この本はあなたのために書かれています。

本書ではこの行き詰まりを、「アスク&オファー」 と呼ばれる小さな対話のかたちから解いていきます。

チームワークを生み出す
「アスク&オファー」

リーダーは、孤立しやすい?

能力があって、責任感があって、いつも誰かを助けている。なのに、自分を助けてくれる人はいない気がする。そういう感覚は、リーダー職に立つ多くの方が共通して持っているものです。

組織の中で、あなたのチームはいま、どの局面にいるでしょうか。

いずれの局面でも、しわ寄せが集まるのは多くの場合、「一番抱える力がある人」 です。それが、あなたです。

リーダーの孤独は、気のせいではない

「自分が弱いだけかもしれない」、そう思い込んできた方も多いと思います。ここで少しだけ、数字の力を借りさせてください。いくつかの数字が、それが個人の問題ではなく 構造の問題 であることを示しています。※1

これらの数字が示しているのは、「個人の弱さ」ではなく、「立場が上がるほど助けてもらえなくなる構造」 が、いまの組織にあるということです。

そして、その構造から降りる入り口が、本書のテーマである アスク&オファー です。

なぜ助けを求めることは難しいのか

答えを持っている方が偉い。手を差し伸べる方が立場が上。助けを求めるのは、どこか「負けを認める」「無能さの証明」のように感じられる。そんな組織文化を経験してきた方は多いかもしれません。

でも、本当にそうでしょうか。実際には、リーダーが正直に「わからない」「助けてほしい」と開けるチームの方が、結果としてはるかに高い成果を出していくことがわかっています。本書が描くのは、その転換です。

自分が苦手なことを隠す人は、孤立しやすい。
自分が苦手なことを問いの形で開く人のまわりに、協力が生まれやすい。

助けを求めることの五つのかたち

助けを求めるコミュニケーションには、いくつかの形があります。ひと目で見るなら、次のような5つの形に整理できます。

形 特徴 例
ASKアスク 欲しいものをイメージして、みんなの見えるところで「誰か〜」とお尋ねしてみる。助けられない可能性にひらかれながら。 「どなたか、手を貸してもらえませんか?」
OFFER差し出す 相手に役立つことを願って「えいっ」と差し出す。受け取られない可能性にひらかれながら。 「もし必要なら、私、聞けますよ」
HELP援助要請 本当に困っていて緊急の助けを求める(NOにひらかれていない)。 「もう限界、助けて!」
REQUEST依頼 特定の誰かに、具体的なお願いをする。受け取られない可能性にひらかれながら。 「○○さん、この資料レビューをお願いできますか?」
CLAIM要求 特定の誰かに特定のことをするよう要求する(NOにひらかれていない)。 「これは約束だったはずでしょう!」

この五つは、優劣ではありません

場面によって、どれもが必要になります。ただ、本書で大切にしたいのは アスク です。

「人様に迷惑をかけてはいけない」。このような信念が、強く働く場面があります。「助けを求めることは相手の負担になる」と感じて、助けを求めること自体を避けてしまう。どうしても必要なときはヘルプかリクエストの形を取り、それ以外は自分で抱え込む。

でも、アスクは迷惑ではありません。アスクは、親切なことです。人はたくさんの経験や知恵を持っています。あなたが「ここが足りない」と軽やかにひらいた瞬間、誰かの中で眠っていた力に出番が生まれます。ただの素質が、チームへのギフトに変わります。

土台が太い方ほど、自分一人で完結してしまいがちです。だからこそ、軽やかなアスクを出す力を、意識的に育てておくことに意味があります。

なぜ「アスク」が、いまのリーダーシップなのか

能力があり、責任感があり、いつも人を助けている。でも、助けてもらえない。「あの人は大丈夫だろう」「忙しそうだから声をかけづらい」。助ける側にいると、いつのまにか 「一段上」 のポジションに固定されてしまいます※2。すると、周囲はその人に頼りはしますが、その人を助けようとはしなくなります。

ここに、関与(エンゲージメント)の力学が隠れています。いつも上に立っている人のまわりでは、他の人の関与が下がっていきます。「あの人に聞けばいい」「あの人がやってくれる」。できる上司が、部下をポンコツ化させてしまう構造です。

一方、「わからない」「助けてほしい」と正直に開ける人(一段下りられる人)のまわりでは、周囲の人が動き出します。「それなら私が」「こんな方法もあるよ」。人は、誰かの答えに従うときよりも、誰かの問いに応えるときの方が、はるかに主体的に動きます。

助けを求めることは、親切なことです。
なぜなら、それは、相手の力に出番をつくる行為だから。

リーダーにとって、助けを求めることは弱さではありません。アスクすることは、親切なことです。周囲の人が「自分にも貢献できることがある」と感じられる余白をつくることです。その余白に人が踏み込んできたとき、チームの関与が動き始めます。

ただし、一つだけ気をつけてください。これは「テクニック」ではありません。人の関与を引き出すために弱いフリをするのは操作で、見抜かれます。ここで言う「控えめに問いかける」姿勢※3とは、形だけの脆弱性ではなく、本当に困っていること、本当にわからないことを開く態度のことです。そのとき初めて、相手の中から本物の応答が返ってきます。

あなたの Ask が、誰かの Offer を目覚めさせる。誰かの Ask が、あなたの中に眠っていた力を引き出す。その循環の中で、チームは 「出席」から「参加」へ、「参加」から「関与」へ と動き始めます。

ミトリズ 受験者の方へ
『わたしのトリセツ』第1部 1-3「伸びしろ 協力依頼の入口」 を併せて読むと、ご自身のデータの中に「どこから Ask を始めるか」の手がかりが見つかります。内面のケア/自己肯定感/外部の仕組み/対人の言語化。4つの入口のうち、どこから始めるかは、データを手がかりに対話で選びます。

会議の最後の5分を変える

アスク&オファーを始めるのに、特別なワークショップはいりません。

私がほぼすべての会議の終わりにやっていることがあります。最後の5分を「アスク&オファーの時間」として開く のです。Art of Hosting の実践コミュニティでは「ヴィレッジニュース(村の知らせ)」と呼ばれている方法ですが、名前は何でも構いません。「お呼びかけタイム」でも「困りごと相談コーナー」でも、そのチームに馴染む言葉で呼ぶのが一番です。

やり方はごく簡単です。

残り5分あります。何か伝えたいこと、お知らせ、助けを求めたいこと、誰かに提供できること。何でもいいので、ある方はどうぞ。

そして、待ちます。

ここが大事なところです。「何かありますか?」と聞いて、2秒沈黙が続いたら「では終わりましょう」と閉じてしまう方が多い。でも、5分と決めたら、5分間そのスペースを開き続けます。

すると、4分経った頃に、誰かが口を開きます。

一つだけいいですか。実は今、○○で困っていて……

この 「4分目の声」 が、とても大事です。

なぜ4分もかかるのでしょうか。助けを求めることが苦手な方は、思ったより多いものです。「こんなことで人の手を煩わせていいのか」「自分でなんとかすべきじゃないか」。そういう声が頭の中で鳴り続ける。場の安全を確かめ、「本当に言っていいのかな」と逡巡し、やっと声が出る。4分はその葛藤の時間です。

だから、この5分間は「待つ」だけでなく 「開く」行為 です。何も出てこなくても構いません。5分間、みんなで静かにその場にいること自体が、「ここでは助けを求めていい」というメッセージになります。

すでにチームの中で一定の地位がある人、助けを求め慣れている人は、すぐに声を出せます。本当に声を必要としているのは、そうではない人たちです。声が小さい人。助けられづらい人。その人たちに届くスペースを開くために、何もなくても5分間を取ります。

そして、声が出た瞬間、同じ会議にいた誰かが「あ、それなら私が」と手を挙げる。その場で、すぐに協力関係が結ばれます。付箋もマッチングも要りません。必要な人がすでにそこにいるからです。

これを毎回の会議でやっていると、チームの中に「助けを求めていい」という空気が少しずつ育っていきます。最初は4分かかっていた声が、やがて1分で出てくるようになります。

特別なイベントとしてではなく、日常の習慣として、アスク&オファーのスペースを開き続ける。それが一番実務的で、一番効果が高いやり方です。

反町 恭一郎
AUTHOR / 反町 恭一郎

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。この本を書いた、反町恭一郎です。

組織開発ファシリテーター、チームコーチとして、これまで700件を超えるワークショップ・コーチング・組織開発に関わってきました。

扱う現場はさまざまで、企業の組織風土改革、M&Aや事業承継で揺れる組織、NPOの目指す方向性づくり、自治体の市民参加型ワークショップ、国際協力の現場でのリーダー育成、教育、福祉、多文化共生、人道支援まで、多岐にわたります。

脚注・参考文献

※1 統計の出典

※2 一段上に立つ/一段下りる

Edgar H. Schein, Helping: How to Offer, Give, and Receive Help, Berrett-Koehler, 2009(邦訳『人を助けるとはどういうことか』英治出版)。シャインは、助ける関係には構造的に「ワンアップ/ワンダウン」の力学が生じることを指摘しています。

※3 控えめに問いかける

Edgar H. Schein, Humble Inquiry: The Gentle Art of Asking Instead of Telling, Berrett-Koehler, 2013(邦訳『問いかける技術』英治出版)。シャインは「自分が知らないことを認め、相手に純粋な好奇心を向ける」姿勢を humble inquiry と名づけました。

続けて、もう一冊。