GIFT BOOKLET No.02 / FOR YOURSELF

診断結果の、読み方の本2

自分の「強み」を、
決めつけない

「強み」と呼ばれる一語のなかに、
いくつもの層がある。
急いで「解決」する前に、もう一段ひらく。

全5章 + はじめに・おわりに / 読了 約12分 /
CONTENTS

この本で、起こること。

  1. この小冊子について
  2. すぐに「解決」したら、もったいない
  3. 「強み」ってなんだ?
  4. あなたという森 四つの層
  5. さっきの佐藤さんを、この眼鏡で見ると
  6. 自分一人では、届かないところがある
  7. お知らせ
INTRO

はじめに

この本は、『診断結果の、読み方の本1 起きやすい誤読あるある』の続きにあたります。

そこでは、数値を「いまのコンディション・考え方のクセ・伸びしろ」という3つの層に分けて読む、その入口を見ました。本書では、その先(「強み」と呼ばれる言葉でひとくくりにされやすい概念)を、もう一段こまかく開いていきます。

MYTORIS(ミトリズ)に限らず、詳細な「診断ツール」を使うかどうか考えている段階の方にも、すでに結果を受け取って読み直したい方にも、補助線として役立つはずです。

世の中には、自分を理解するための道具が、たくさんあります。性格診断、強み診断、キャリア論、コーチング。占い的なものから、科学的なものまで。ざっくりしたものから、詳細なものまで。かなり幅広いツールが、いつでも手に入る時代です。

それなのに、自分を理解することは、かえって難しくなっている。そう感じている方も、多いと思います。私もそう感じています。

理由のひとつは、自己理解のために使われる言葉が、その解像度を上げるどころか、むしろ混乱を生み出しやすいことです。

「強み」「価値観」「やりたいこと」「パーパス」

自分探しを進めるほどに、新しい言葉で頭の中がいっぱいになり、かえって混乱してしまう。

あるいは、診断によって「わかった気」になって、本当はあなたやチームに起きようとしていた変化が、起きないままになってしまうこともあります。

この本では、人を、「空の容れ物」や「機械のようなもの」ではなく、ひとつの「生きた森」として眺めてみます。

「強み」や「価値観」という言葉に、ごちゃ混ぜに入っている概念を、森の四つの層に分けて読み直してみる。それを一回つかめば、「色眼鏡」 みたいになります。

それをかけてみることで、「診断結果」はもちろん、「申告」や「評価」との向き合い方が、少しだけ変わる。そのきっかけになれば、と思っています。

すぐに「解決」したら、
もったいない

そもそも、「診断を受けてみたい」という気持ちは、どこからきたのでしょうか。たぶん、それは、あなたの中の 違和感 や 好奇心 から、始まったはずです。

私って、どういう人なんだろう。何をしたいんだろう。何が、自分の強みなんだろう。そういう「問い」が、あなたの中にあったはずです。

ところが、いまはその引っかかりを、上手に消してくれる道具やサービスが増えています。

もちろん、それらはすべて善意で、親切な支援です。でも、だからこそ、ときに、それはあなたに、「もったいないこと」 を起こしているかもしれません。

上に書いたようなことをすると、気持ちはスッキリしてきます。でも、その親切さや寄り添いの中で、まだ言葉になっていなかった「なんか違う」が、もっともらしい説明によって、解決されてしまうことがあります。

違和感は、あなたが何かを理解しようとしているサインです。それを無かったことにしてしまうのは、本末転倒で、もったいないことです。

ひとつ、実際にあった話を

たとえば、こんな方がいました。仮に佐藤さんと呼びます。佐藤さんは、ある診断を受けて、こう言われました。

「警戒性が高く出ていますね。これは、未来のリスクに気づく力です。あなたの強み ですね」。

佐藤さんは、確かに自分にはそういう傾向がありそうだと感じました。実際、仕事の中で、人より早くリスクに気づいて、何度も役に立ってきた。だから、「そう言われると、そうかもしれない」とも思ったのです。でも、同時に、こうもつぶやきました。

「私の強みって、私が好きなこと、とは違うのか」

「リスクに目がいって、状況を楽しめないこともあったから、あんまりいい気持ちではない」

このような「ギモン」や「違和感」が立ち上がってきたと言います。

もしこの時、佐藤さんがそのようにハテナを持たなかったら、どうなっていたでしょうか。「そっか、これが私の強みなんだ。まあ、そういうものか。がんばろう」。佐藤さんは、「警戒性」を「強み」として、これからも使い続けることになるはずです。そして、いままで通り、やるほどに消耗していくことになる。

でも、佐藤さんは、「解決」する前に、立ち止まりました。この「うーん」、何が起きていたのでしょうか。

「強み」ってなんだ?

佐藤さんの「うーん」。あれは、何だったのでしょうか。

ひとつ、はっきりしていることがあります。佐藤さんは、「強み」という言葉を、ひとつの固定された持ち物 として手渡されました。「あなたの強みは、警戒性です」と。まるで、ずっと持ち歩く道具を、ラベルごと渡されるように。その渡され方に、身体が「うーん」と言ったのです。

理由は、二つあります。

ひとつ:この一語は、種類の違うものが混ざっている

「あなたの強みは、警戒性です」。この一語は、本当は別の種類のものを、いっしょくたにしています。

「強み」 という一語に 傾向 そういう傾向(地形) 得意 自分で「できる」(内から) 需要 人の役に立つ(外から) 好き(want to) ここには入らない =別の層(次章) ※ 強みは三つの「足し算」ではなく、場と出会って「立ち上がる」もの
図1:「強み」という一語が抱え込みがちな、種類の違う三つ。「好き」はそこに入らない

そして、ここが大事なのですが、「好き」は、ここに入っていません。 好きは、傾向でも、できることでも、誰かの求めでもない。もっと別の層にあります(次の章で見ます)。

だから、佐藤さんが「強みって、好きなこととは違うのか」とつぶやいたのは、混乱ではありません。むしろ、種類の違いを、正確に感じ取っていたのです。

クセとしてはある(傾向)。やれている(得意)。人の役に立っている(需要)。でも、「好き」かというと違うし、「自分で選んだ」かというと、そうでもない。このズレは、「あなたの強みは警戒性です」という、ひとことの中では見えません。「強みです」と言われた瞬間に、塗りつぶされてしまう のです。

ふたつ:強みは、そもそも「個人の持ち物」ではない

もうひとつ、もっと根っこの話があります。強みは、傾向・得意・需要を 足し合わせた中身 でもありません。これらの素材が、ある場で噛み合ったときに、外から「あ、これは価値だ」と見えてくる。そうやって 立ち上がってくる もの。それが、強みです。

最初からどこかにしまってある持ち物ではなく、関係の中で起きる、出来事に近い。(このことは、本の終わりにかけて、だんだんはっきりしてきます。)

だとすると、「あなたの強みは○○です」と固定して手渡すことは、関係性の中で起きていることを、止まった「看板」として渡してしまう ことになります。佐藤さんの「うーん」は、そのすり替えに、身体が気づいた音だったのかもしれません。

そこで、必要なのは、あなたという人や関係性を、生きた全体 として眺めることです。

あなたという森 四つの層

森には、地下を流れる水脈があります。空からは雨が降り、地形があり、植生があり、天気が移ろいます。水が湧き、木が育ち、いつのまにか地形さえ変わっていく。

人も、それによく似ています。機械の部品の集まりではなく、常に動き流れている、ひとつの系(システム)です。この森を読むのに、四つの視点を使います。

地と天 方向(価値観・使命)

森は、二つのことから影響を受けます。大地と、空から。

価値観VALUE

あなたから湧き出る

地面の下を流れる、水源です。「これは大事だ」「これは譲れない」と、あなたの内から湧いてくるもの。自分で決めるというより、気づくと湧いている。作り出すものではなく、見つけるもの。森のすべての命の流れです。

使命CALLING

あなたが呼ばれる

「これは、自分が成さねばならない」「やらざるを得ない」と感じる引力です。頭で組み立てるものではなく、気づけば、呼ばれている。"向こう" からやってくる、人生からの電話のようなもの。

そして、この地と天は、循環しています。 源(価値観)から水が湧き、森が育って応え、やがて水蒸気となって還り、また雨になって降り注ぐ。それが森へと染み渡り、また水源から滲み出していく。

水の流れ 動力(好き=want to)

水源から湧いた水は、流れます。この流れが、好き(want to) です。

好きとは、身体がついやってしまう、それ自体が報酬になる行為のこと。結果が出なくても、褒められなくても、「ダメ」と言われても、ついやってしまう、身体が報酬として感じる行動です。やりたくてやっている。森が、森として自然に流れている状態です。

その逆が、have to。義務や恐れや外圧で、流れを止めて、森を外から製材し、規格品を取り出すような力です。同じ強み・同じ傾向でも、水源から湧き出る want to で動けばあなたは充ちていき、have to で動かされればあなたは消耗します。

「好き(want to)」と「価値観(value)」の違い

好きは「ついやってしまう」という、身体の・行動のレベル。価値観は「こうありたい・こうあってほしい」という、信念・判断のレベル。

それは、水源(価値観)と、そこから湧く水流(好き)のようなものです。質は違うけれど、同じ水系でつながっています。

森をどう見るか 視点(内から見るか、外から見るか)

森には、地形と植生があります。これが傾向です。それを、どこからどう見るかによって、言葉が変わります。

傾向TENDENCY

その人の地形・植生そのもの。今、備えている傾向や気質です。先天的なものも、後から育ったものもあります。良いも悪いもない、中立なものです。

得意GOOD AT

森の内側からの眼差し

その地形が自分の中で発揮されて、「自分はこれができる」と手応えを感じるもの。「警戒性が高い」という地形(傾向)から、「リスクを先に察知できる」という手応え(得意)が育っていく。得意は、あなたの一人称で、「できる」という自覚のことです。

需要DEMAND

森の外側からの眼差し

誰かからの求めや依頼、期待。誰かの願いや、悩み事。これはあなたの外側にあります。傾向(地形・素材)が場の需要と、ある文脈で噛み合ったとき、あなたは需要に応えたことになり、感謝や賞賛、承認をされます。そして外から「これは価値だ」と見えてくる。そのとき立ち上がってくるのが、強み です。

「得意」と「強み」の違い

同じ森の同じ性質を、内から見たのが得意(自分が「できる」という自覚)、外から見たのが強み(他者・場が「価値だ」という評価)。視点が違うのです。

だから、両者はズレることがあります。自分では得意と思っていないのに、外から見たら重宝される(森は「水が湧くのが得意」とは思っていないけれど、外から見れば貴重な水源です)。逆に、自分では得意のつもりでも、誰かが求めなければ、強みにはなりません(眺めがいいと思っても、誰も見に来なければ)。

つまり強みは、最初から在る所有物ではなく、関係性の中で立ち上がる現象 です。「あなたの強みは○○です」と固定されると、この「立ち上がる」という出来事の、動き出す感覚が、消えてしまいます。

手入れ 編む働き(選択)

ここまでの層を、自分でどう編むか。それが 選択 です。価値観は湧いてくるもの。使命は呼ばれるもの。好きは身体からやってくるもの。傾向は備わったもの。需要は外側からくるもの。こうして見ると、自分について、選べることばかりではありません。動かせる範囲は、思ったより狭いかもしれない。

でも、そこに「選択」があります。「これは自分で選んだ」と言える状態にしておくこと。流れてくる水を、どの木に引くか。どの地形に手を入れるか。森の手入れにあたる働きです。

好き 湧いて流れる水 需要 外からの求め 天 使命降ってくる呼びかけ 森 傾向地形と植生 森 得意内から「できる」 強み需要と出会って立ち上がる 地 価値観内から湧く水源
図2:地(価値観)と天(使命)が巡り、好き(want to)の水が湧いて森を育て、外からの需要と噛み合うところで「強み」が立ち上がる(森の循環)

図には描いていませんが、この森を外から製材するのが have to、森に手を入れるのが 選択(will) です。

次の章で、さっそく、この見方で、佐藤さんをもう一度見てみます。

さっきの佐藤さんを、
この眼鏡で見ると

第1章の佐藤さんを、もう一度、見てみます。

佐藤さんの森には、はっきりした地形があります。警戒性 という、切り立った尾根のような傾向です。そして、その尾根を使った先回りやリスク察知が、実際にできている(得意)。まわりも、それをいつも求めている(需要)。

傾向があり、得意で、需要がある。外から見れば、これは確かに「強み」に見えます。


しかし、よく見ると、森の生態系が弱っている のです。地下の水源である価値観(「自分は何を大事にして、これをやっているのか」)は濁り、そこから湧く水流である好き(「これを、やりたくてやっている」)も埋もれている。

水が流れていない森で、それでも木を切り出し続けています。これが have to です。義務感や、まわりの期待や、「やらなきゃ」で、森を製材し続ける。だから、やるほどに、消耗していきます。

しかも、得意が、そのまま需要とばっちり合っています。「ついやれちゃうこと」が、「求められる」。それは確かに、森を利用する人にとっては、価値です。でも、森にとって「そもそも私は、これを好んでやっているのか」「これは森を健康に育てるのか」と聞けば、それはNOでした。

つまり、佐藤さんが考えるべきは「私の強みは何か」「誰の期待に応えたらいいか」ではありません。それはますます、自分自身を切り出して出荷することです。そうではなく、佐藤さんという 森を流れる水そのもの:「何を大事に思い、何をやりたくてやるのか」という流れでした。

佐藤さんの「なんか違う」は、「自分はおかしい」ではなく、「このままでは森と水が枯れてしまう」という、森からの知らせ だったのです。

流れていない、と気づく。
それだけで、診断結果の読み方は、変わる。

すぐに水源を掘り当てる必要はありません。

傾向と需要だけで動く危険性

ここまで見えてくると、「傾向」や「得意」と「需要(人からの求め)」が合うからと言って、「もっと使いましょう」とだけ言うことの危うさも、見えてきます。それは、木を切り出し、製材をさらに増やし、消耗を促すだけかもしれないからです。

そういうときに必要なのは、「もっと使う」ことではなく、たぶん、こういう問いです。

Q. 「これは、私が好きなことかな?(want to)」 Q. 「これは、私が大事にしていることかな?(value)」 Q. 「これは、私の使命とつながっているかな?(calling)」 Q. 「これは、私が選んだものかな?(will)」

「強み」や「価値観」でひとくくりにされた言葉を見たときは、一度この「メガネの問い」をかけてみてください。そのうえで、それでも続けると決めたなら、続ければいい。その時はじめて、それは 選択 になります。

自分一人では、
届かないところがある

ここまでの「色眼鏡」があれば、診断結果も、自分のことも、ずいぶん豊かに読み開けるはずです。実は、この本そのものが、一人でできる「セルフコーチングの教材」 として作ってあります。診断を受けても受けなくても、四つの層を手元に置いて、自分に問いかけていく。それだけでも、十分に進めます。

ただし、自分一人では、どうしても届かないところが、あります。

思い出してください。強みは、自分が持っている所有物ではなく、素材が場と出会って、外から「価値だ」と見えたときに立ち上がる ものでした。とすると、その「外からの目」を、自分の中だけに持つことは、原理的にできません。強みが立ち上がる瞬間には、たいてい、誰かが要るのです。

それに、人間の認識は、自分に都合のよい方向へ、静かに歪みます。能力の問題ではなく、誰でもそうです。私もそうです。「これは好きじゃないかも」と気づきかけても、頭が上手に説明をつけて、なかったことにする。「傾向と需要だけで動いていたかも」と気づいても、忙しい日々に戻れば、そのパターンはそのまま続く。一人で見ようとすると、見えない場所が、必ず残ります。

だから、外側からの「目」や「耳」があると、こんなことが起こります。

診断書の意味が、立ち上がる。 ただのデータの羅列が、「あ、これ私のことだ」に変わる瞬間は、たいてい、誰かに話している最中に訪れます。

はまっているパターンに、気づく。 「そうせざるを得なくてやっている(have to)」のか、「自分で選んでいる」のか。その違いは、共通言語を持った相手と話すと、くっきりしてきます。

自分では見えない強みが、立ち上がる。 あなたが息を吐くように自然にやっていることが、他の人から見たら、とんでもない貢献だった。これは、一人ではまず気づけません。あなたのこれまでの経験を、誰かと一緒にふりかえるなかで、見つかることです。

OUTRO

お知らせ

ここから先は、ご案内です。必要な方だけ、どうぞ。

MYTORIS では、診断書が出たあと、最大4名まで、その読み解きと、内容をチームの中で意味づけしていく対話を、サポートしています。

判定もしません。処方箋も出しません。やることは、シンプルです。あなたの「傾向」が、自分で選んだ強み として立ち上がるのを、隣で一緒に見る。一人では立ち上がらなかった意味と、自分では見えなかった強みを、対話の中で見つけていく。

もしピンときたら、ここから先は、一緒にやりましょう。

反町 恭一郎 / WORKARTS LLC

反町 恭一郎
AUTHOR / 反町 恭一郎

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。この本を書いた、反町恭一郎です。

組織開発ファシリテーター、チームコーチとして、これまで700件を超えるワークショップ・コーチング・組織開発に関わってきました。

扱う現場はさまざまで、企業の組織風土改革、M&Aや事業承継で揺れる組織、NPOの目指す方向性づくり、自治体の市民参加型ワークショップ、国際協力の現場でのリーダー育成、教育、福祉、多文化共生、人道支援まで、多岐にわたります。

続けて、もう一冊。